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2017/03/10

笑(:

 昔、映画評論家の淀川長治さんがラジオ番組で、映画から学んだ人生訓の一つとして「悲しいから泣くのではない。泣くから悲しいのだ」という言葉をあげていた。これは実際に心理学や脳科学でも議論になることがあるテーマで、人間の「不思議さ」が伝わってくる。▼こちらは「楽しいから笑うのではない。笑うから楽しいのだ」という話である。近畿大学と吉本興業などが協力して、笑いが心身の健康にどんな影響を与えるのかを調べる研究が始まった。被験者にお笑い芸人の舞台を定期的に見てもらい、表情や心拍数といったデータを集めて病気の発症率との関連などを調べるという。▼近く開設される大阪の病院も、がん医療に笑いがどう役立つか研究する。患者をお客に病院の中で落語や漫才の会を開き、笑う前と後で免疫細胞の働きや、ストレスの度合いを示す物質がどのように変化するかを分析していく。「笑うだけならタダでっしゃろ」との声も聞こえてきそうな、笑いの本場らしい試みといえる。▼その大阪で発覚した国有地の不透明な払い下げからミサイル発射による威嚇まで、内外とも眉根寄せることの多いニュースが続く。笑ってコトが解決するはずもないが、笑顔は忘れず日々を送りたい。淀川さんは晩年に入院した際、病室の前にこんな貼り紙を出したという。「このドアを開ける人は、笑って開けて下さい」【日本経済新聞】春秋 2017.3.8.