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2014/05/03

隣りの責任

 辞書を「読む」面白さは、これまでも多く語られている。が、隣同士肩寄せ合って並ぶ言葉の「組み合わせ」の妙に着目するあたり、さすが名随筆家としても知られた向田邦子さんらしい▼「明解国語辞典」をなにげなくめくっていると、「恋女房」と「小芋」、「恋愛」と「廉価」が並んでいたそう。さらに、「ハネムウン」の隣には「はねまわる」。「結婚」に寄り添うようにして「血痕」があるのを見つけて、ドキッとしてしまったという。エッセー集「無名仮名人名簿」(文春文庫)の「隣りの責任」に書いている▼さて、きょうは「憲法記念日」。向田さんにならって、手元にあった「新明解国語辞典」(第5版)で「憲法」を引いてみた。右には「険峰」(高く険しい峰)、左には「減法」(数学で引き算の意)▼なかなか意味深長だ。高い理念を掲げた憲法の価値が、時の権力によって削られようとしている―。そんな現況を表しているとも読める。近くには「健忘」や「権謀」も。戦争の悲劇と教訓を忘れて、「9条の解釈変更で事実上の改憲をしてしまえ」という姑息(こそく)な術数を警告しているかのよう▼辞書並みに厚い六法全書で「9」が肩を寄せ合う憲法99条を引くと…。<天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ>とある▼言うまでもなく安倍晋三さんも含まれる。【北海道新聞】<卓上四季>2014.5.3