NHKのテレビ小説「ごちそうさん」が、好評のうちに終了である。ヒロインは食べることに熱心で、食べさせることを無上の喜びとする。朝の画面を眺めつつ「You are what you eat」という英語の慣用句を思い出した▼直訳すれば「あなたはあなたの食べるもの」となる。すなわち「あなたがどんな人かは、食べてきたものしだい」。だから「食べることは大切」という教訓でもある。シンプルな言葉ながら含蓄がある▼この「eat」は色々と取り換えがきく。たとえば「read」にすれば「あなたが読むものがあなた」となる。ところが先頃、若い人たちは大丈夫かと心配になる数字に出くわした▼全国大学生協連によれば、1日の読書時間がゼロという学生が4割を超すそうだ。全国30の国公私立大学の約9千人が回答を寄せた。いまどき「そんなもの」なのかもしれないが、活字商売の身には寂しさが募る▼読むものすべてを吸収して膨らむのが少年少女期なら、学生時代は時間をかけて、滋養に満ちた一冊に食らいつけるときだ。朝の読書を行う小中高校は増えているのに、せっかくの習慣が最高学府で雲散霧消してはもったいない▼朝ドラの終幕は食糧難の戦後だった。人々が活字に飢えた時代でもあった。時は流れて美食も活字もあり余る時代である。当方、日替わり料理を作る思いでコラムを書くが、レシピはどこにもない。さて「ごちそうさん」と言って頂けるかどうか。若い皆さんにも。【朝日新聞】<天声人語>2014.3.29